2010年01月31日

赤めだか

先週、木曜と金曜は東京と大阪への出張でした。
東京まで飛行機、東京から大阪へは新幹線だったので、
その間の時間、一冊の本を読みました。

『赤めだか』 立川談春・著

高校を中退して立川談志のもとに弟子入りした、立川談春による珠玉のエッセイ。
師匠・立川談志との数々のエピソード、師匠と弟子の愛、本当に素晴らしい本でした。

何も一切考えず、ただ憧れの談志についていった。
談志と弟子達の日々が、プロとしての自覚とは何か、そして人が人に
感謝して生きていくことの素晴らしさ、人間として大切なものは何かを教えてくれます。

豊な暮らしがあればそれだけでいいですか?
優しいだけの先生や上司がいいですか?

自分を魅了した師匠に、とことんまでついていく。そしてやがては、自分がその思想を
継いで、一流になっていく。

八十円の菓子ごときで泣きだす息子に親父はあきれ、しまいには怒りだし競艇場の売店で
あるだけのチョコフレークを買うと「全部喰え。ひとつでも残したら許さん」と僕に渡した
(中略)「菓子を欲しがるのは子供の権利だがな、権利を主張するなら義務がついて
まわるんだ。覚えておけ。ひとつも残さず喰え」
少年は、泣きながら権利と義務の因果関係を父から学ぶ。

新聞配達をしながら落語家の前座修業。そして兄弟子、弟弟子達との修行生活。

立川流は一家ではなく研究所である。研究所であるから飛びきり強い生命体も生まれるが、
その陰で驚くほどの犠牲も出る。実力、能力を優先した本当の意味での平等と自由はあるが、
残酷なまでの結果も必ず出る。それが談志の選んだ教育方法である

「たとえ前座だってお前はプロだ。観客に勉強させてもらうわけではない。あくまで与える
側なんだ。そのくらいのプライドは持て。お辞儀が終わったら、しっかり正面を見据えろ。
焦っていきなり話しだすことはない。堂々と見ろ。それができない奴を正面が切れないと
云うんだ。正面が切れない芸人にはなるな。

「型ができていない者が芝居をすると型なしになる。メチャクチャだ。型がしっかりした
奴がオリジナリティを押し出せば型破りになれる。どうだ、わかるか? 難しすぎるか。
結論を云えば型をつくるには稽古しかないんだ。

「お前に嫉妬とは何かを教えてやる」と云った。「己が努力、行動を起こさずに対象となる
人間の弱味を口であげつらって、自分のレベルまで下げる行為、これを嫉妬と云うんです。
本来ならば相手に並び、抜くための行動、生活を送ればそれで解決するんだ。しかし、人間
はなかなかそれが出来ない。嫉妬している方が楽だからな。だがそんなことで状況は何も
変わらない。よく覚えとけ。現実は正解なんだ。」

前座は修行期間中である。修行とは矛盾に耐えることである。修行はつらい。上の者が白い
と云えば黒いもんでも白い。

立川談志が談春の目の前で、誉めてやる、認めてやる、とまで云ってくれた。本望だ。
辞めなくてよかった、心の底から喜びが湧き上がってきた。

弟弟子が先に真打ちになり、拗ねている、甘ったれている談春。この一件での周りの反応が
おもしろい。彼を叱咤、激励するさだまさし、そして、彼の知らないところで考えてくれて
いる人達。

とにかく、おかしくて、哀しくて、笑いながら、涙を流しながら読んでいました。
本当にいい本です。

 


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Posted by Hirao club at 01:52│Comments(0)
 
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